英語で「舞台美術」を意味する「セノグラフィー(scenography)」をその名に冠するとおり、セノ派は「舞台」でも「美術」でもなく「シーン(scene)」をつくろうとしている。彼/彼女らによれば、それは「景」とも呼べるものだ。風景、景色、情景、絶景……劇場を飛び出してまちのなかにさまざまなシーン/景を立ち上げることで、セノ派は都市空間を拡張してしまう。
そんな彼/彼女らがF/T 19のオープニングプログラムとして披露したパフォーマンスが「移動祝祭商店街」だ。豊島区の複数の商店街を舞台にしたこのパフォーマンスは、3人の舞台美術家が商店街の文化や風景を汲み上げてつくった山車を中心に行われるもの。3つの山車はそれぞれ異なる商店街から出発し大塚駅前の広場に集結、最後は広場で大規模なダンスパフォーマンスへと結実していった。
舞台美術の可能性を追求するセノ派が「商店街」をテーマに選んだのは、決して故なきことではない。ヨーロッパのパフォーミングアーツが昔から「広場」を中心に発展していったとすれば、広場なき日本では「道」を中心に道行きの芸能やお祭りといった芸能がつくられてきたからだ。商店街(shopping street)とは道(street)であり、まちでもある。都市とパフォーミングアーツをつなぐ空間として、それはある。「移動祝祭商店街」とは、日本の都市空間のなかでいかにパフォーミングアーツが可能か模索するための試みでもあるのだ。
コロナ禍によって集まることが難しくなった今年の「移動祝祭商店街」は、「まぼろし編」として実施される。そもそもパフォーミングアーツとは、つかの間の“まぼろし”を立ち上げるものでもあるだろう。パフォーミングアーツと都市空間の交点を求めて、オンライン/オフラインを往還しながら今年もセノ派はつかの間の〈景〉を立ち上げていく。
写真:合同会社アロポジデ | Photo: Alloposidae LLC
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