谷端川遡行 5 『谷端橋』

旅人:山内健司

幻の土木工事

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旅人より

豊島区をS字型に貫流する、今はもう無い「谷端川」。ずーっと昔からこの土地の人々の暮らしは谷端川の凹凸に導かれて形づくられました。その流域の人々の記憶がぎっしりと積もった、母なる川です。

「谷端川遡行」では、道路も建物も透視して、地形の凹凸に導かれるがままに川を遡りました。流域には今はもう無い、記憶の中にだけある橋がそこかしこにあります。

例えば旅の途上、視界の端に一瞬映った、ベランダの向こうの部屋の空気が、不意打ちのように私の胸を射抜くことがあります。あそこに暮らしている自分は、どんな仕事をして、どんな暮らしをしてるんだろう。

それは、旅をする私の身体と、土地に積もった記憶が交差して、起動した一瞬の出来事です。出来事はみな、橋のたもとで起きました。

 

参考文献:『旧谷端川の橋の跡を探る』(豊島区立郷土資料館友の会, 1999)

 

※ ※ ※

「ここの交差点にね、谷端橋っていう橋がありました。川の名前が谷端川だから、もう主役ですね! 想像できないですよね、これ無理ですね、残念。あのちょっとみなさんに提案があります。工事です、土木工事。幻の土木工事をやりましょう。想像で土木工事をやるんです! さあ行きますよーっ、アスファルトをべりべり全部剥がしましょう。ねっ。たぶん少し掘ると幅3メートルくらいの擁壁っていう川の護岸のコンクリートの跡が出てくると思うんだよね。そのコンクリに詰まってる土をきれいに除去してー、コンクリの川の全貌があらわれます。さあコンクリートもこわしましょう。もう一度土の川を復活させましょう。両岸の歩道のアスファルトも全部剥がしちゃって、むき出しにして。そんなことしてなんの意味があるのかって? 音と匂いを復活させるんです。この川の記憶はきっと音と匂いの記憶。土のくぼみの底に流れる水の音、すこしこもった感じの水の音。雨の日に勢いよく流れていく水の音、そして匂い。幻の土木工事で谷端川を復活させましょう」

 

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旅人プロフィール

山内健司

俳優。1984年より劇団青年団に参加。90年代以降の平田オリザによる「現代口語演劇」作品のほとんどに出演。フランス、韓国との国際共同制作に多数参加。街や人と直接関わる、劇場の外での演劇にも力をいれる。平成22年度文化庁文化交流使として全編仏語一人芝居『舌切り雀』をヨーロッパ各地の小学校で単身上演。